世界的な気温の上昇を抑え、人間の行動が環境に及ぼす影響を管理するうえで、気象や気候を理解することの重要性がかつてないほど高まっています。
気象モデルの高度化や研究の進展は、利用できるコンピュート能力に大きく左右されます。
デジタルトランスフォーメーションを専門に扱う中国企業のAgilorと当社が進めている最近の取り組みでは、GraphcoreのAI技術がこの重要な研究分野の高速化に大きく貢献していることが実証されています。
Agilorの研究者が、土壌や植物などの表面から大気中に水分が移動する速度である「蒸発散」をモデル化したところ、既存のコンピュートプラットフォームと比較して劇的な性能向上を達成したのです。
同社は現在、気象学のほかに、自然災害の防止と緩和や、農業における精密灌漑、農村の活性化など、IPUのさらなる応用を検討しています。
クリギングの複雑さ
ある地点の蒸発散量(ET0)は、気温や湿度、気圧、風速など、複数の気象観測値の積として求められます。
ET0の値を算出したら、それらを地図上にプロットできます。しかし、収集できる現実世界のデータの数には限界があります。
そこで、全体像を把握するために、クリギングと呼ばれる技術を用いて測定位置の間のET0値を補間するのですが、これには高い計算能力が必要になります。
AgilorがIPUを使って最初に行った取り組みは、クリギングプロセスの高速化でした。
同社の研究チームは、オープンソースモデルであるPyKrigeを使用しましたが、PyKrigeは通常、CPU上で動作するのでマルチコア、マルチスレッド処理を使用できず、性能上の制約が大きくなります。
それに対してIPUソリューションは、そのような制約を克服し、60倍もの性能向上を実現しました。そのうえ、さらなる改善も期待されています。
新たな技術基盤
Agilorは今後、IPUで行った蒸発散のモデル化を基に、森林火災の防止や、農業における精密灌漑、自然災害の管理などへの応用を検討していく予定です。
AgilorのCEOであるDanny Huang氏は、最先端のAIコンピュートにアクセスできることの重要性が、かつてないほど高まっていると述べています。「気候変動は、これまでの知識や法則が通用しなくなり、あらゆる計算を短期的かつリアルタイムで行われなければならないことを意味しています。私たちは今後、より困難で集中的な計算に対処しなければならなくなります。」
「GraphcoreのIPU技術のおかげで、予測と対応をより短期間に行えるようになったので、将来増えるであろう気候変動にも対応できる自信がつきました。」
「この技術はまさに、Agilorの技術基盤になっているのです。」
HPCを再定義する
Agilorによる画期的な取り組みは、これまでCPUやGPUが主流だった分野でGraphcore IPUの応用に成功した、最も新しい事例です。
このAIとハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)の融合は、ここ2~3年で劇的に加速しており、Graphcoreの技術は気象学や宇宙論、素粒子物理学、流体力学の分野で活用されています。
最近では、ヨーロッパ中期予報センター(ECMWF)が開発した多層パーセプトロンモデルの実行において、主要なGPUと比較した場合に、IPUを使用することで5倍の性能向上につながることがGraphcoreの研究者によって実証されました。
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