気候危機が深刻化するなか、高潮や熱波、ハリケーン、山火事などの異常気象事象がますます頻繁に発生しています。先ほど開催されたCOP26で、2030年までに排出量を削減する計画が世界各国の首脳によって発表されたとおり、異常気象現象への十分な備えは世界的に重要性を増しています。
そのような準備を進めるうえで、数値気象予報の科学が重要な役割を果たしています。ECMWFのような組織は、現在の気候データに基づいて将来の気象事象を予測することにより、近づきつつある異常気象事象をより早く、より正確に関係当局に警告し、財産やインフラの保護、さらには命を救うための対応を行えるようにしています。
現在、ECMWFでは、従来のHPCアルゴリズムに加えてAIを使用し、大規模なシミュレーションをこれまで以上に高速に進めています。数値気象予報におけるニューラルネットワークの使用を調査した最近の研究論文でも言及されているように、ECMWFの担当チームは一連の深層学習モデルを開発しています。ECMWFで特に注目されているのは、モデルの解像度を上げるためにモデルの計算効率を向上させることによって、気象予測モデルの精度を高めることです。
IPUで気象予測を5~50倍、高速化する
Graphcoreのエンジニアは、ECMWFが公開している予測モデルから多層パーセプトロン(MLP)を選び、GraphcoreのIPU-PODシステム上で高速化して劇的な結果を得ました。IPU-PODシステムは、ECMWFの予測MLPモデルの学習を、主要なGPUより5倍も速く行うことができたのです。
ECMWFは天気予報における機械学習を検証した論文の中で、機械学習に基づいたエミュレータがGPUハードウェア上で発揮する動作速度は、CPU上の既存のスキームと比較して10倍であると報告しています。それを前提にすると、ECMWFのCPU上で行う既存のシミュレーション手法に比べて、IPUは50倍もの圧倒的な速度を誇ることになります。
IPUシステムでの高速化は、MLPモデルやそのパラメータの最適化や変更を行うことなく達成されたもので、コードにもごくわずかな修正しか加えられていません。このモデルは順調に学習を進め、数回のエポックを行っただけで学習データと検証データの両方において損失とRMS誤差(RMSE)の値が低くなることから、モデルの予測精度の高さがうかがえます。ECMWFのMLPモデルがIPUによってどのように高速化されたかについては、当社のコードチュートリアルビデオをご覧ください。
HPCとAIの収束におけるIPUハードウェアの活用
天気予報に限らず、HPCとAIの両方が使用される多くの科学研究用途においても、IPUハードウェアを使うことで高速化が実現できることが示されています。タンパク質の折り畳みや計算流体力学から、宇宙論や高エネルギー物理学に至るまで、主要な研究機関ではIPUシステムを利用することでワークロードを高速化し、新たな方向性で研究を進め、より精度の高い結果を得られるようになってきました。
GraphcoreのパートナーであるAtos社でハイパフォーマンスAI部門責任者を務めるCedric Bourrasset氏は、この分野におけるIPUに大きな可能性を見出しています。「従来のHPC用途でAIを使用することは、今日のコンピューティングにおいて最も盛んに行われている開発の一つですが、GraphcoreのIPUは、その新しいアプローチがどれほど斬新なものであるかを示しています」
「GraphcoreはAtosのThink AIソリューションにおいて中心的役割を果たしており、それによって、AIがHPCにもたらす多くのメリットがお客様のもとに届けられています。たとえば、より高速で正確なシミュレーションの実現や、費用効果の改善、研究用途や商業用途における新たな分野の開拓などです。その可能性は計り知れず、日々広がりを見せていますが、それを突き動かしているのは、IPUで行われている革新的な作業なのです」
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